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水上正史氏は2016年から2019年10月にかけて在スペイン大使を務められました。このインタビュー記事はスペインご在勤中の2018年当時に作成、公開されたものです。

 
2016年に日本国特命全権大使としてスペインに赴任された水上正史氏。
スペイン滞在がもうすぐ2年の節目を迎える今、大使のスペインとの繋がり、お仕事への思いなどを伺った。

 

 
イギリス留学で感じた外国に住む面白さ
 
― 水上大使は、なぜ外交官になることを目指されたのでしょうか
 
水上:私の父親は海外に行くことのない仕事をしていたので、私は大学に入る前に海外に行ったことがありませんでした。一方私の行った大学は、民間企業に就職する方を含めて卒業後は比較的海外で勤務する人が多いところでした。それで海外での生活とはどんなものかと思い、大学2年の夏休みにちょっと親に無理を言って、英語の勉強を兼ねて2ヶ月間イギリスに行ったんです。そうしたら外国に住むことが非常に面白くて、これは将来日本の組織に属しながら外国に住む機会のある仕事を選択したいなと思い、そのひとつとして外交官という職業のことを考え始めました。
 
私よりも10歳から15歳上の人たちの時代には、日本や日本経済を支えるにあたって公務員の果たした役割は大きかったと思っています。日本の戦後から昭和50年頃迄にやってきたことは日本の成功例だったと思いますし、同じ公務員の仲間として例えば通産省がやってきた産業政策は日本国民に大変良いものを与えたと感じます。その後そうしたやり方にいくつかの制度疲労が起きているのは事実でしょう。
 
一方今の若い人達に外務省を受けることについてどう思うかと問われれば、外務省に入って外交官になる、というよりは、国の為に国のパブリックセクターの為に仕事をするんだと考えた方が良いと助言しています。
以前は優秀な人材は霞が関に集めてという考え方があったと思いますが、今はもっと民間セクターで働いて貰った方が日本全体の豊かさに結び付くんじゃないか。勿論そういう中でも国 (公) にしかできない仕事があって、例えば防衛や司法・警察です。外務省の仕事の範囲は広がって来ているけれども、国と国とで交渉をする、何かあった時に国の立場をきちんと相手政府に伝えるという仕事は、恐らく外務省の仕事としての意味が依然として存在する。だからそのようなパブリックセクターでしかできない仕事をやるためにそういった部門の公務員になることについては、大いに奨励しますね。要するに「外交官」になるのではなく「外交を担う国家公務員」になるという意識が大事です。

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楽しみながら覚えたスペイン語
 
― 外交官になられて、まずスペインに語学研修に来られたとのことですが、どのような思い出がありますか?
 
水上:まず、マラガでサマーコースを過ごし、その後秋口からバジャドリードに行って大学の寮であるコレヒオ・マジョール「サンタクルス」に住み始めました。私は日本の大学を卒業した学士でしたので大学院生のスペースに住むことが可能だったのですが、学生の方のスペースの方が楽しそうだなと思って、そちらの個室に入れて貰いました。その男性寮で自分より4~5歳若い学生達とワイワイ話したり、議論したりしたのが一番の思い出ですね。そこから歩いてすぐの文学部に通って、講義を受けて、寮の友達とお茶を飲みに行ったり、週末はディスコにいったり、そうやって楽しみながら自然と言葉を覚えていったというのが一年目でしょうか。でも正直言って、文法は無茶苦茶でしたから、二年目はマドリードに出て来て文法をきちんと勉強する為に語学学校に通いました。
 
今回スペインに赴任してからその頃の友人達とも再度交流ができて、弁護士として活躍している友人から法律問題についていろいろと解説して貰ったり、スペインリーグのサッカークラブの球団事務局長になっている友人に試合に招待して貰ったり、何十年か振りで改めて仲良くさせて頂いて、本当にありがたいですね。

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アルゼンチン、メキシコ、ニューヨーク、インド、そして沖縄
 
― スペインにご赴任になる前に、いろいろな国でお仕事をされておられますね。どのような思い出がありますか?

水上:どの赴任地もそれぞれに思い出がありますが、結婚して子供が二人できて家族と初めて海外で生活したアルゼンチンは、そういう意味で特に印象に残った国でしょうか。メキシコにも行きましたが、中南米はある意味自分のホームグラウンドですから、東京でしていた仕事の延長線上のようなイメージでした。その後ニューヨークの国連代表の勤務があったのですが、赴任後すぐに9.11の大規模テロ事件が発生して、犠牲になられた方たちやその家族の皆さんのお手伝いをしました。あの事件に対するアメリカの反応を間近で見ることができたことは、日本の外交官として良かったと思っています。
その頃在ニューヨーク総領事館の文化広報センターの所長をやられていたのが越川前スペイン大使で、現地で家族ぐるみで仲良く過ごさせて頂いたのは良い思い出です。インドに赴任した際は、子供達は社会人と大学生になっていたので、家内と二人で行きましたが、素晴らしい部分があるのと同時に国が抱えている問題も多く、毎日が驚かされることの連続で、大変刺激的な2年間でした。機会があればもう一度戻ってもいいかなと思うほど、印象が強い国ですね。
 
その後沖縄担当大使を務めましたが、その役目は沖縄において米軍基地に対して日本国政府を代表すると言うものです。もう一つの仕事は沖縄の人達の声を政府に伝えることで、住んでいると気持ちは随分沖縄寄りになりましたね。いろいろと抗議に来られた方達ともじっくり話をすると、お互いに立場は違いながらも随分仲良くなれた方達もいらっしゃるし、充実した時期だったと思います。色々なことを学びました。

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日本のファン、日本に関心のある人達を応援したい
 
― スペインにご赴任されて約2年になりますが、どのようなお仕事に注力されておられますか?

水上:日本の外交の相手国には3種類の国があると思います。一つは日本との関係で重い外交問題を抱えており交渉すべきことが多い国。アメリカもその一例です。もう一つは、日本には余り関心のない国で、そういう相手には、日本とはこういう国なんですよという話をしなければなりません。その間にあるのは、多くの欧州の主要国のように、日本のことも良く理解しているし、日本のある特定のことは私よりも良く知っている日本ファンがいるような国。スペインはそういう国の一つです。よく言うのですが、スペインをはじめ、友好関係に大きな問題のない国との二国間関係を強化し深めるということが、大使の仕事の半分じゃないかと思っています。
 
今年は『日本スペイン外交関係樹立150周年』の年ですが、そこで一つでも多くの事業を行って、一人でも多くの人がそうしたイベントを観に来てくれて日本のイメージをより理解して頂くことが大事で、その為に文化活動を含めていろいろな活動を行っています。その中で、日本大使館ができることは限られているので、この国にいる日本ファンの人達、日本に関心のある人達を応援したいと思っています。そういう意味でも去年の夏から始まったワーキングホリデー制度の実施は貴重だと考えています。スペインの方達が日本を訪れれば、何かを見つけて帰って来てくれるだろうと思いますし、その人たちが特に「日本の専門家」にはならなくても、エンジニアだったり、ビジネスマンだったり、医者になったりするときに、日本でそういった時間を過ごしたことを共有する「日本友の会」のようなものがあったりするといいなと思います。

平成29年度天皇誕生日祝賀レセプションにて。スペイン政府関係者、外交団、在留邦人をはじめ、約530名が出席した。

平成29年度天皇誕生日祝賀レセプションにて。スペイン政府関係者、外交団、在留邦人をはじめ、約530名が出席した。


 

 
スペイン人の活動が大きな力になる
 
― 『日本スペイン外交関係樹立150周年』の記念行事が既に300以上登録されて大いに盛り上がっていますね。

水上:恐らくその300以上の行事のうち、日本大使館が準備したものは僅かではないかと思います。大半はスペインの日本ファンの方々が勝手に自主的に企画してくれたものです。勿論その中にはスペイン在住の日本人も含まれます。正直この事業を始めた時に、どのくらいの行事が生まれるかは分かりませんでしたが、思いの他多くの人たちが参加してくれて非常に嬉しく思っています。
 
大使館として、年始にコシノジュンコさんのファッションショーを開催したり、6月下旬から歌舞伎の興行を行いました。それらの行事の規模は大きいですが、スペインの日本ファンの皆さんが行って下さっているいろいろな行事と価値としては同じだと私は思っています。一つ一つは小さな行事でも、来年は150周年の認定はなくてもまたやろうねって、いろいろなところで「日本友の会」のような皆さんがいろいろな活動を行ってくれる方が、全体的な力になるように思います。
日本大使館の館員、マドリード日本人会、マドリッド水曜会、国際交流基金などいろいろな機関が努力して下さっていますが、多くのスペインの人たちが思い思いに活動して下さっているのは大変大きな意味を持っていると思っています。

JAL財団『世界こどもハイクコンテスト 2017/2018』表彰式にて。

JAL財団『世界こどもハイクコンテスト 2017/2018』表彰式にて。


 

 
日本でのスペイン語の普及を目指す
 
― 大使のお仕事の中で、今後どのようなことに特に力を入れたいと考えておられますか?

水上:日本とスペインが政府間で作成する行動計画があるわけですが、それを新しく作ろうと言う話があって、その中でいいなと思っているのは日本でのスペイン語の普及です。
これは日本に帰任してからやるべきことかと思いますが、例えば日本で大学を受験する際に、多くの大学では外国語の試験が課されているのですが、多くの受験生は外国語として英語を選択しています。英語以外にフランス語を選択できる大学もありますが、そうした英語以外の言語としてスペイン語でも大学入学試験を受けられるようにするなど、日本の教育の中でスペイン語で何かができるようになると、スペイン語が更に日本で普及するのではないかと思います。そういう意味ではスペイン語と中国語はニーズからすると、日本でのフランス語のポジションくらいまでは持って行けるような気がしています。そういうことが実現すれば、スペインにスペイン語を勉強しに来る日本人も更に増えるでしょうね。

マドリード市役所企画『国際クリスマス文化フェア (La Navideña Feria Internacional de las Culturas)』にて。マドリード市長マヌエラ・カルメーナ・カストリージョ氏と。

マドリード市役所企画『国際クリスマス文化フェア (La Navideña Feria Internacional de las Culturas)』にて。マドリード市長マヌエラ・カルメーナ・カストリージョ氏と。


 

 
― 最後にスペイン在住の日本人に対して、またスペインの人たちに対して、一言メッセージを頂けますか?

水上:スペインに住んでおられる日本人の方は、ひとりひとりが日本とスペインとの繋がりの役割を持っていて、皆さんの一つ一つの行動が日本の評判を作るので、自覚を持って生活して頂きたいと思います。またスペインにいるということは、よそ様の国にいるということなので、一人一人の行動が日本の名誉を高めもするし、傷つけもするということを理解した上で行動して欲しいですね。
 
スペインの皆さんには、スペインには日本と日本のことに接する機会が多くあるので、是非じっくり見て欲しいですね。例えばマンガであるとか、日本の何かについて興味を持ったら、大使館の広報文化班がいろいろな材料を持っていますから、遠慮することなくセラーノ通り109番地の日本大使館に、情報を求めて訪ねて来て頂きたいと思います。是非大使館にいらっしゃって、そこにある本や漫画を読んだり、日本に接して、少しでも日本に親しみをを持って頂けたらと思っています。

 

本日はお忙しいなかお話を聞かせて頂きどうもありがとうございました。
日本とスペインの更なる友好関係強化に向けて引き続き宜しくお願い致します。

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取材協力:在スペイン日本国大使館