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キアラ・クルティ(建築家)寄稿

 
10年以上前、サグラダ・ファミリア教会の生誕のファサードに設置する門の制作者を選ぶコンクールで外尾悦郎氏が優勝した時には、その作品がこれほどまでに美しいものになると誰が想像できたであろうか。
 
その門は、設置された最初の日であったにも拘わらず、まるでずっと昔からそこにあったもののように見えた。
 
サグラダ・ファミリア教会で、ガウディの生前に建設されたこの唯一のファサードは、その門の到着を待っていたのだ。
 
 
外尾氏が最初に取り組んだのは、愛徳の門に設置される扉であった。
この二つの扉はサグラダ・ファミリアの礎となったマリアとヨセフに捧げられている。
緑色の蔦の葉は少しずつ赤みを帯び、その隙間からはヨセフとマリアのイニシャルである”J”と”M”の文字が見える。
 
自然界で最も良く愛を表現しているのは蔦(ツタ)であると外尾氏は言う。
伸び行く枝は、周りの他の枝によって支えられている。
作品に近づいて良く見ると、蔦の葉の間に昆虫のつがいを見つけることができる。
近くを通りかかる子供たちが、まるで生きているかのような、それらの昆虫に触れる。
子供たちの笑みがこぼれる。
 
扉はブロンズ製だ。
それは人間と同じように、触れ合う度にその輝きを増す。
触れ続けられても損なわれることはない。
更に美しくなるのだ。
「これは人生の美しさである。希望に満ちた人生こそが美しいのだ。」と外尾氏。
葦(アシ)の間に百合の花が咲くこの扉は、希望という美徳に捧げられたこの門によって支えられている。
 
外尾氏は語る。
「葦の根は浅く、風が吹くと倒れてしまう。しかし倒れても新しい芽が息吹く。」、「水は命の源である。百合はモンセラートの山の岩陰に隠れた小川の岸に育つ。それはそこに住む仙人の希望を表している。」
 
この門の内側には、ヨセフが家族と共に立ち向かわなければならなかった、砂漠の砂が表されている。
「ヨセフは、この砂漠の向こうに何があると期待したのだろうか。妻と、生まれたばかりの子供イエスを養うためのたくさんの魚がいる海、すなわちより良い人生への希望である。」
 
頭上に視線を移すと、大喜びで飛び跳ねている銀色の魚が見える。
ヨセフがもたらした希望は、やがて全ての人々の希望となった。
魚はキリスト教徒を表している。
 
外尾氏が最後に取り組んだのは、信仰の門である。
棘のない幾千ものバラがこの門を彩っている。
外尾氏は言う。
「信仰を持つ者の心は、永遠の花で満たされている。」
 
このファサードが完成したのは、2015年のクリスマスの頃であった。

 
 


画像提供:外尾 悦郎

 

 
Jun2016_EtsuroSotoo外尾 悦郎(そとお えつろう)


1953年生。
福岡県福岡市出身の彫刻家でスペイン、バルセロナのサグラダ・ファミリア主任彫刻家。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科を卒業。非常勤講師を経て、1978年バルセロナに渡りアントニ・ガウディの建築、サグラダ・ファミリア教会の彫刻に携わり多くの作品を制作した。そのうちの15作品が、2005年にユネスコの世界遺産に認定された「生誕の門」に残されている。
これまでにリャドロ・アート・オブ・スピリット賞(2002年)、福岡県文化賞(2002年・交流部門)、カトリック文化国際賞(2011年)、ミケランジェロ・ディ・カララ賞(2012年)を受賞した他、日本とスペインとの文化交流の促進の功績により、2008年度外務大臣表彰受賞。
また2012年9月、国際社会で顕著な活動を行い世界で『日本』の発信に貢献したとして、日本の内閣府から「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の一人に選ばれた。
2014年にはAEFEによるヨーロピアン・ゴールデン・クロス賞と、その輝かしい経歴を讃えるガウディ・グレソル賞を受賞。近年ブリュッセルの欧州議会で「ガウディのリアリズムとヨーロッパの希望」展示会を、そして2011年の前ローマ教皇ベネディクト16世のマドリード訪問時に「サグラダ・ファミリア・ムーブド・バイ・ビューティ」展示会を開催した。現在は京都嵯峨芸術大学他の美術教育機関の客員教授として活躍中。
Facebook:https://m.facebook.com/etsuro.sotoo.7 
 
サグラダ・ファミリア
http://www.sagradafamilia.org/es/(スペイン語)
http://www.sagradafamilia.org/en/(英語)