ESJAPÓNインタビュー No.10:吉本 ばなな

 
東京・下北沢。春の雨の降るある日の午後、ESJAPÓNは、世界中にその作品の愛読者を持つ作家の吉本ばなな氏のオフィスを訪問し、インタビューをさせて頂く機会を得た。
吉本氏にとってスペインとは? そして今後の制作活動の予定は?

 

 
マドリードとそれからランサロテ島に行きました。

 
日本人で東京に住んでいらっしゃる吉本さんにとって、スペインとはどのようなところでしょうか。
 
昔はスペインと言うとイタリアに近い国だなとか、何回も訪問し慣れ親しんだイタリアからの角度からしか見られなかったけど、最近はスペインに知人も増えて来て、以前よりスペインに対する親しみが増えたと感じます。
スペインのバスク地方のイルンという街に昔からの知人が住んでいて、バスク イコール スペインのようなイメージを持っていたのですが、バスクはスペインの中でも特殊な場所だし、今思うと変わった入口だったなと思います。
それが良かったところもあるし、ちょっと違っていたかなと思うところもありますね。
 

 
そのイルンの知人の方はスペイン人ですか?
 
その人は日本人で、スペインの方と結婚してイルンに住んでいます。だから食べ物とかお土産とかすべてが少し変わっていて、スペインってこうなのかな?と思っていましたが、そのうちにやっぱりそれはスペインの標準とは少し違ったんだと言うことが分かって来ました(笑)。
 

 
スペイン料理はお好きですか?
 
大好きです。
東京でもスペイン料理屋さんに行きますよ。塩漬けの鱈をもどしてホワイトソースのようなもので和えて焼いたグラタンのようなお料理が特に好きですね。
 

 
スペインに来られたことはありますか?
 
一度だけあります。本当に少しの間でしたが、マドリードとそれからランサロテ島に行きました。
でもランサロテ島は、私の中ではバスク地方と同じ位スペインの中でも特殊な地方だと思っているので、スペインの勘定には入れていなかったです(笑)。
 

 
今まで一度だけ来られたスペインで、何が印象に残りましたか?
 
ランサロテ島が余りにも変わった場所だったので、それに打ち消されてしまってマドリードの良さを余り覚えていないのが残念です。マドリードは一泊だったし、滞在中に子供が39度の熱を出してしまって徹夜で看病したりして、自分でも意識が朦朧としていました。

 

 
近くに住んでいるのにランサロテ島にまだ行ったことがない人は、 絶対に一度行った方が良いと思います。

ESJAPÓNインタビュー No.10:吉本 ばなな

 
『アナザー・ワールド ―王国その4―』の中にランサロテ島の話が出て来ますね。吉本さんにとってランサロテ島はどんなところでしたか?
 
何と言うか、良くも悪くも異様なところでしたね。ランサロテ出身のアーティストのセサール・マンリケさんが、あの特異な景色を上手く利用して風景アートを作っておられるのが、とても面白かったです。
風景をそのまま使って、一つの島で自分のアートを展開するというか、そういう可能性が存在するんだなと思いました。独占的な状態というか。それにすごく胸を打たれました。ですから近くに住んでいるのにランサロテ島にまだ行ったことがない人は、絶対に一度行った方が良いと思います。これまでの自分の人生で訪れた場所の中でも、かなり印象的なところでした。
 

 
サボテンがお好きなんですよね。ランサロテにもサボテンがありますね。
 
あんなに乾いた場所だとは思わなかったです。あの乾燥した環境がサボテンを育てるのに向いているのだと思います。本当に変わった場所だったな。
 

 
それを小説に取り入れようと思われたのは何がきっかけだったんでしょうか。
 
とにかく余りにも変わった場所だったので、覚えているうちに文章に残しておきたいと思ったのが一番強かったです。

 

 
「デッドエンドの思い出」をお薦めしたいです。やはりあの作品が自分の集大成だと思っていますので。

ESJAPÓNインタビュー No.10:吉本 ばなな

 
これまで7つの小説作品(キッチン、N・P、アムリタ、白河夜船、TUGUMI、デッドエンドの思い出、みずうみ)と、一つのエッセイ(人生の旅をゆく)がスペイン語訳されて発売されています。ばななさんからみて、この中で特にスペイン語圏の方にとってお勧めしたい作品はありますか?
 
どれか一冊だけ読んで頂けると言うことであれば、「デッドエンドの思い出」をお薦めしたいです。やはりあの作品が自分の集大成だと思っていますので。私の小説の中のいろいろな要素が入っていて良いのではないかと思います。
 

 
一番最近スペイン語で出版されたのは「人生の旅をゆく」ですね。これはスペイン語で出版された初めてのエッセイですが、小説作品とはまた異なり、著者をより身近に感じられる作品と言われているようです。この本は吉本さんにとってどのような作品ですか?
 
基本的にはある期間に書いたものを集めて作った作品なんですが、編集の方が大変優秀で、ジャンル分けをしたり組み替えたり、私も少しずつ書き直したりもして、いろいろな時期にいろいろなところで書いたエッセイが新しく生まれ変わったと言うか、そんな作品ではないかと言う気がします。
丁度子供が生まれた直後の頃からと言うか、2004年前後から2006年頃に書かれた作品が中心ですね。
 

 
その後「人生の旅をゆく 2」も書かれていますね。
 
はい、子供が生まれたり、親が亡くなったりと言うのはやはり人生の中でも大きな事件なので、読み応えのあるエッセイ集になっているのではないかと思います。いつ出版されるかはまだ決まっていませんが、「人生の旅をゆく 3」の文章も今書き溜めているところです。
 

 
これまでに40以上の小説作品を書かれていますが、スペイン語で紹介されているのはまだそのうちの一部です。是非その他の作品も紹介されていくことを期待しています。
 
そうですね。これからの時代は世界中リアルタイムになって行くのかなと言う気もしていて、そうなった時にどんどん訳されて国境を越えられるといいなと思っています。
リアルタイムと言うのは、電子書籍が伸びて、良い翻訳ソフトが出来て来ると、日本語のオリジナル版が出た時に、内容を理解するだけであれば海外の人もほぼリアルタイムで一応読めるとか、それでその作品を気に入った場合は、それが正式に翻訳出版されるのを待つとか、いろいろなバリエーションが出てくるような気がします。ゆくゆくはそんな時代が来るような気がしますね。

 

 
こういうことってあるんだな~と、ぞーっとする位良かったです。

ESJAPÓNインタビュー No.10:吉本 ばなな映画の話題ですが、4月25日に「白河夜船」を原作にした映画が日本で公開され、7月18日に「海のふた」を原作にした映画が日本で公開される予定です。御自分の作品が映画化されると言うのはどのような気持ちですか?
 
基本的には、映画になったらそれは映画監督の作品であると言う気持ちがあって、これまでは客観的な気持ちで映画と関わって来たので、自分の作品が原作になっているからといって特別な思い入れがある訳ではないのですが、「白河夜船」は本当に良く出来た映画で、私の作品が原作で映画化が行われるとしたら、一生これを超える映画は出て来ないんじゃないかと思いました。
 
これまでの映画化では、多くの場合作品に対する自分の解釈と監督の解釈が異なっていて、違う作品になっているなあとずっと感じて来ましたが、「白河夜船」ではむしろ原作よりも良くなっているんじゃないか、くらいに思いました。
 
これが実現されたから、ちょっと気が楽になったと言うか。今まで余りにも監督の理解と私の理解が違ったので、これはもう分かって貰うこと自体を諦めた方がいいんだなというあっさりした気持ちでいたんですが、今回は、こういうことってあるんだな~と、ぞーっとするくらい良かったです。
 

 
その映画を観るのが楽しみですね。欧州を含めた海外でも上映されることを期待します。
「海のふた」の映画の方はいかがですか?

 
私の解釈と監督の解釈がかなり違うなとは思いましたが(笑)、公開は夏で、かき氷も良い感じで出て来ていたし、日本の古い漁村の風景がとても美しく撮れているので、それを見るだけでも価値はあるのではないかと思います。
 

 
今後の創作活動のご予定を教えて下さい。
 
今やっていることの区切りがついたら連作を書いてみたいと思っていて、現在取材中です。
私の作品の中では「王国」のシリーズが四連作ですが、四連作か五連作位の作品を50代のうちに10年位をかけて書いて行きたいなと思っています。

 

 
四連作か五連作位の作品を50代のうちに10年位をかけて書いて行きたいなと思っています。

ESJAPÓNインタビュー No.10:吉本 ばなな

 
またスペインに来られるご予定はありますか?
 
マドリードにとても親しい人達が住んでいるので、とても行きたいと思っていますが、なかなかチャンスがなくて。
「土地に呼ばれる」じゃないですが、何だか分からないけれど行かなきゃと言うことになってどこかに行ってしまう時がありますので、そういうのが上手く来てくれればいいなと思います。
例えばイタリアのカプリ島の場合は、一生に一度行けばいいかなと思っていたのに、結局3度も行っていますし(笑)。
 
好き嫌いとかではなくて、何かきっかけがある時があるんですよね。流れっていうのかな。流れが来たら是非またスペインへ行きたいですね。
 

 
最後にスペインの読者の皆さんにひとことメッセージを頂けますか。
 
以前南米に行った時に、スペイン語に訳された私の本をブックフェアで沢山見たんですが、その時の感じと、スペインの人達がスペインで読んでいる感じって全く違っていて、スペインの人達の読み方の方が、頂いたりする感想にしても私にとってもっと身近に感じられるんですよ。
だからやっぱり何かご縁があると言うか、繋がりを感じるなと思います。
 

 
どうもありがとうございました! 引き続きのご活躍を期待しています!
 
こちらこそ、どうもありがとうございました。
 

 

 
御子息が12歳になり、ご自身も50歳になられて、ペンネームをデビュー当時の漢字表記の「吉本ばなな」に戻された吉本氏。
コンスタントに執筆活動を続ける吉本氏の今後の作品に期待したい。

 

 
吉本 ばなな


1964年 東京都生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。
1987年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞受賞。1988年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞受賞。1989年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞受賞。1989年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞受賞。1993年イタリアのスカンノ賞受賞。1995年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞受賞。1996年イタリアのフェンディッシメ文学賞「Under 35」受賞。1999年イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門受賞。2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞受賞。2011年イタリアのカプリ賞を受賞。
『キッチン』をはじめ、諸作品は海外30数カ国で翻訳、出版されている。
吉本ばなな 公式サイト
 

 

 
スペイン語訳された吉本ばなな作品の紹介


 
Tusquets Editores出版社:『キッチン』、『TUGUMI』、『アムリタ』、『N・P』、『白河夜船』、『デッドエンドの思い出』、『みずうみ』
Tusquets Editores

ESJAPÓNインタビュー No.10:吉本 ばなな
 
SATORI出版社:エッセイ『人生の旅をゆく』
SATORI

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