第5章:人的交流・教育・地方連携 ――未来を支える「人」のつながり

 
――文化、教育、人的交流についてですが、日本語学習、留学、ワーキングホリデー、地方交流、文化イベントなど、さまざまな分野があります。大使のご任期中に特に強化していきたい分野がありましたらお聞かせください。

まず申し上げたいのは、ワーキングホリデー制度が日西関係において非常に大きな役割を果たしているという点です。制度が開始されてから10年が経過しましたが、申請数は年々増加しており、多くのスペインの若者が、この制度を通じて日本を知るきっかけを得ています。さらに、今後はワーキングホリデーの枠が拡大される予定ですので、利用者が一層増えることを期待しています。

 
地方交流とJETプログラムの広がり
 
人的交流の中でも、地方間交流は非常に活発です。例えば、サンティアゴ・デ・コンポステーラと熊野古道、バスク地方と福島県、パンプローナ市と山口県など、具体的な協力関係が築かれています。また、スペインのJETプログラム参加者が、国際交流員として日本の地方で活躍している例もあり、こうした人的交流が日本の地方にとっても大きな力になっています。私はこうした協力の可能性を持つ地方自治体を、日本に帰国した際には積極的に訪問し、交流を後押ししていきたいと考えています。

 
大学・研究機関間の交流とコロナ後の再活性化
 
それ以外にも、大学間交流や研究機関間交流など、日西の間にはさまざまな形の協力があります。この分野についてはできるだけ現地に足を運び、日本に来ていただき、また日本側からもスペインを訪問する形で、相互交流がさらに活性化されるよう取り組んでいきたいと考えています。
 
特に、コロナ禍により交流が一時的に完全に止まってしまった時期がありました。その影響で、現在も十分につながりが戻っていない分野もあると思いますので、そうした点についても、実際に足を運び、再び交流を活性化できるよう努力を重ねていきたいと思っています。

 

第6章:日西関係の現在地 ――補完し合う強みと、距離を超える勢い

 
――現在の日西関係を大使はどのように位置づけておられますか。強みと課題を一言ずつ挙げるとどのような点になるでしょうか。

なかなか一言で表現するのは難しい部分もありますが、日本とスペインというのは、お互いに補える、補い合える部分が非常に多い関係なのではないかと思っています。
 
例えば、エネルギー分野ではグリーン水素の生産が進んでいますが、日本は水素の貯蔵や輸送といった技術開発が比較的進んでいます。一方で、スペインは生産面での強みを持っていますので、こうした点では相互に補完関係を築くことができるのではないかと考えています。
 
また、日本もスペインもいわゆる成熟した先進国であり、今後、内需が飛躍的に伸びるという状況はなかなか期待しにくいという共通点があります。だからこそ、それぞれが持つ地域的な強みや国際的なネットワークを活かし、協力関係をさらに促進していくことが重要だと思っています。単独で取り組む以上の効果を、お互いに享受できる可能性がある――言い換えれば、真の意味での「ウィンウィンの関係」を築くことができるのではないか、というのが私の認識です。

  
地域的強みを活かした補完関係
 
スペインにとってみれば、中南米、地中海地域、アフリカといった地域に対する歴史的・地理的な強みがあります。一方で、日本はアジアやアメリカとの関係において強みを持っています。こうしたそれぞれの得意分野をうまく組み合わせることで、両国が単独で行動する以上の成果を上げることができるのではないかと思っています。

  
距離という課題と、それを超える現実
 
もちろん、日本とスペインの間には物理的な距離があります。航空機での移動時間を考えても、恒常的に関係を強化し続けるためには、相応の努力が必要です。しかしながら、その距離にもかかわらず実際には多くの分野で協力が着実に進んでいるという現実があります。先ほどもいくつか具体例を挙げましたが、これは日西関係が単なる形式的なものではなく、実質的な中身を伴って発展していることの表れだと思います。

  
象徴的な進展 ――安全保障と観光
 
象徴的な例を挙げると、安全保障分野では2025年にスペイン海軍がインド太平洋地域にフリゲート艦を派遣しました。これは実に131年ぶりの訪日、寄港となりました。これは、日西間の安全保障協力が新たな段階に入っていることを示す出来事だと考えています。
 
また、人的交流や観光の面では、ワーキングホリデー制度の拡充に加え、訪日したスペイン人観光客の数が2024年に史上最高を記録しました。2025年についてもさらに増加する可能性が高いと見ています。

  
関係全体に感じる「勢い」
 
私自身が感じているのは、現在の日本とスペインの関係にはさまざまな層にわたって「勢い」がある、ということです。距離という制約を乗り越えながら、関係が力強く前進している――そうした実感を持っています。

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第7章:欧州とインド太平洋をつなぐパートナーとしての日西協力

 
――国際情勢が揺れ動く中で、欧州とインド太平洋をつなぐパートナーとして、日本とスペインはどのような協力ができるとお考えでしょうか。

この点については、これまで申し上げてきた話とも重なりますが、日本とスペインは二国間関係にとどまらず、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを共有しながら、グローバルな市場や国際社会において連携を深めていく方向で動いていると認識しています。
 
スペインは欧州諸国の中でも、先ほど申し上げた「4つの顔」を持つ国ですが、実は歴史的に見てもフィリピンを通じても300年以上にわたりアジアと関わってきた国でもあります。そうした意味では、欧州の中でもアジアに対する視点を比較的強く持っている国だと言えるのではないでしょうか。

  
欧州とアジアの安全保障は不可分
 
アジアを担当するスペインの外交当局者と話をしていても、インド太平洋地域と欧州・大西洋地域の安全保障が不可分であるという認識については、非常に理解が深まっていると感じています。
 
欧州とアジア、それぞれの地域へのコミットメントを強化することが、両地域の繁栄と「自由で開かれた国際秩序」の維持に直結するという考え方は、日西間でしっかりと共有されつつあると思います。

  
地政学的に重要な国・スペイン
 
もう一つ、地理的な観点から見てもスペインは非常に重要な国です。スペインは、地中海の出口を押さえる位置にあり、この点から見ても地政学的に極めて重要な役割を担っています。こうした背景を踏まえますと、スペインとの関係を外交、安全保障、防衛分野を中心に、もちろん経済分野も含めてさらに深めていくことは分断と対立が進む国際社会の中で、対話と協調を促進する一つの要素になり得るのではないかと考えています。
 
日本とスペインが連携を強化することで、対立を煽るのではなく融和と協調へと導く力を発揮できる可能性がある。そのような方向で貢献できるよう、努力していきたいと思っています。

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