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10月に開催された今年のヘタフェ・ネグロ文学祭の招待国は日本。その日本を代表して同文学祭のイベントに参加した角田光代氏。今回「八日目の蝉」が、彼女の作品としては初めてスペイン語訳にて発売され、直木賞受賞作の「対岸の彼女」も近々スペインで発売される予定とのこと。マドリードを訪問された角田氏に、スペインの印象、創作のプロセスなどを伺った。
 

 
今回の訪問で、スペインに対する印象が全く変わりました!

 
ー 旅がお好きでいろいろな国を訪れられた御経験があるようですね。
スペインにも来られたことがあるようですが?

スペインには20年前に一度来たことがあり、3年前にはバスク地方だけを訪問しました。

ー 20年前と言うのはバックパッカーとしてこられたのですか?
そうですね。その時はマドリードには来ていなくて、バルセロナ、マラガ、コスタ・デル・ソルとか、海沿いの街を訪れました。ダリが生まれたカダケスにも行きました。
3年前は、4人の作家がヨーロッパの特定の地域を訪問して、食生活を取材して、それを元に小説を書く、と言う仕事があって、その取材でスペイン側のバスク地方を訪問しました。その小説がその後テレビドラマになるという企画でしたね。

 
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ー スペインの印象はいかがですか?
今回の訪問で、スペインに対する印象が全く変わりました! 実はスペインに来るのがすごく怖くて、と言うのは一時期マドリードで首絞め強盗が多発しましたよね。10年位前でしょうか、日本の有名な歌手の方がマドリードで首絞め強盗に遭って、声が出なくなって一年位歌手を休業していたことがあったんですね。そんな話を聞いて、20年前の自分の旅行の思い出も怖さで更新されてしまって、マドリードに行くのってどうしよう、どうしようってずっと思っていたんです。ところが今回来てみたら、とても安全だし、明るいし、酔っ払いの人達もすごく平和に過ごしていて、思っていたのと全然違いました。以前と比べて安全になったんですよね?

安全になりましたね。確かに昔一時期首絞め強盗が多発した良くない時期がありましたが、今はそのような話は殆ど聞かないですね。スリと置き引きは引き続きいますが (笑)。
観光客を取り囲んで物を取ろうとする人達も全然見ないですね。ですので、この三日間の滞在も楽しくて楽しくて (笑)。
 

 
マドリードに到着してから全部でワインを11本空けました

 
ー スペインの料理やお酒はお好きですか?
ワインが美味しくて、一昨日の夜マドリードに到着して、毎回3人、4人、2人とかで呑んでいたんですが、マドリードに到着してから全部でワインを11本空けましたね。

ー 11本!良いペースですね。数えていらっしゃるのがすごいですね (笑)。
ポンポン空くからなんだかおもしろくなっちゃって。美味しくて、二日酔いしないんですよね。それもビックリしています。今日も本数を更新して行きます (笑)。
 
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生きてることが楽しくて仕方ない人達にみえるんですよ

 
ー 旅は角田さんに書く事のインスピレーションを与えますか?
自分が日本で生きている常識が一番崩されるのが旅じゃないかと思います。旅が自分の狭さを少しずつ広げてくれるのかなと感じています。

ー スペインからはなにかインスピレーションを得られましたか?
まだですね。もう少しすれば多分。

ー ワインを後3本くらい空けたら、何かあるかも知れませんね (笑)。
そうですね (笑)。ただね、先日マドリードが勝った日 (注:サッカーのレアルマドリードがFCバルセロナに勝った当日の夜) に、市内の居酒屋通りに連れて行って貰ったんですね。そしたら深夜の12時にものすごい人出で、どこの店も大混雑で、子供も起きていて。昨夜は昨夜でマヨール広場の隣の立ち飲み市場のようなところに行ったらそこもものすごい人で、全員立って飲んでいて、彼らを見ていると、なんていうか生きる事が楽しくて仕方がない人達に見えるんですよね。それが多分、インスピレーションとしてきっと残る気がします。生きているだけでこんなに楽しいんだ!というか (笑)。
 
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読んでいただいた感想をすごく聞きたい気持ちです
 
ー 角田さん初めてのスペイン語訳された作品「八日目の蝉」が今回スペインで発売されましたが、スペインで角田さんの本が発売されるというのは著者の角田さんにとってどのようなお気持ちですか?
すごく不安があります。と言うのは、私に限らず日本人作家の作品は、アジアでは大変人気があるんですが、欧米ではまず出ないし、出して貰う機会がそもそも余りないです。それはどうしてなんだろうと考えた時に、余りにも日本的なこと、私達が「日本的だ」とすら思っていないようなことが、非常に強いんだろうなと思うんですよね。そこで春樹さん(村上春樹)やばななさん(よしもとばなな)の作品が売れていると言うのは、このお二人はそういうのがないと言う意識があるので、私の本の中ではとても日本的な、例えば不倫だとか、他の作品のなかではいじめだとか、欧米の方には感覚的に分かりづらい事を扱っているので、理解して貰えるかなと言うのは大きな不安です。読んで頂いた感想をすごく聞きたい気持ちです。

ー 沢山ある角田さんの作品の中で、スペインで最初に出る作品が「八日目の蝉」であるのは、どう思われますか?
「八日目の蝉」は日本でも一番売れた作品で、多分分かりやすい要素があるんだと思うんです。その部分がスペインでももし通用するのであれば嬉しいですし、もしスペインとも共通する何かがあるのであれば、「八日目の蝉」が最初で良かったなと思います。

ー 「八日目の蝉」は日本で120万部販売されたんですよね。
映画のお陰なんです。「八日目の蝉」を原作にした映画が日本で大ヒットして、賞も沢山獲得されたので (笑)。

ー 本が映画になると言うのは、角田さんにとってはどういうものですか?
とても嬉しいです。その映画を是非観たいと思いますね。監督がどう解釈されたのかに興味があります。

ー 小説が映画化される際は、通常原作そのままのストーリーと言うことはなくて、多少変わっていることが多いですが、それは別物として楽しむ感じですか?
はい、全く別物として見ますね。多分監督が持っているテーマが強く出てくるので、それを見てみたいと言う感じですね。
 

 
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『八日目の蝉』は、小豆島に取材に行ったことで、逆にわっとストーリーが出来た

 
ー 角田さんが小説を書く際のプロセスはどのようなものですか?角田さんの作品のストーリーはどのように生まれるのでしょうか。
まずテーマがあって、そのテーマを上手く引き出せる場面、舞台設定はどこだろうと言うところから始めて、そのテーマを上手く体現してくれる人は何歳ぐらいだろうというのを決めて、舞台設定と登場人物が決まるとプロットを作るんですけれど、ほぼ人によってみんな作り方が違って、「八日目の蝉」は、話がまだうまく出来ないときに小豆島に取材に行って、行ったことで逆にわっとストーリーが出来たというか・・・。小豆島に行ったときは、舞台を小豆島にするとはまだ決めていなかったので、もう一つ小さな島にも行ったんですね。そしたらその島は小さすぎて、希和子 (「八日目の蝉」の主人公) が隠れられないくらい小さかったんです (笑)。それで勿体ないので、その島を「ロック母」と言う作品の舞台設定に使いました。

ー それが大崎上島なんですね。なるほど。
「対岸の彼女」のときは、本当に忙しい時期で、舞台設定は群馬なんですが、群馬に行けなかったので、地図で見て、ストーリー優先で作ったという感じでしょうか。

ー 「八日目の蝉」で小豆島が出て来ますし、「ロック母」で大崎上島が出て来ますね。小説を書くときに島というのはインスピレーションを与えてくれるものですか?
私が関東の生まれで、海は太平洋しか知らなくて、島も行ったことがなくて、島というものがわからないし、瀬戸内海の凪いだ海の感じを見たりした時に、ビックリしちゃうと言うのが、多分インスピレーションに繋がっていると思います。
 

 
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体を鍛えておけば精神が強くなって、来るべき将来の失恋に耐えられるだろう、と思ったんです

 
ー 話は変わりますが、昔からボクシングをやられていますよね。どうしてボクシングなんですか?
33歳の時に失恋しまして、それにビックリしちゃって、きっと40歳になっても失恋することはあるんだろうなと思っていた時に、体を鍛えておけば精神が強くなって、来るべき将来の失恋に耐えられるだろうと思ったんですよね。それぐらい33歳のときの失恋がきつくて、徒歩圏内で通えるスポーツジムを探したら、一番近くにあったのが輪島さん (注:輪島功一;元WBA・WBC世界スーパーウェルター級王者) のボクシングジムだったんです (笑)。

ー ではその時たまたまエアロビクスのジムが近くにあったら、エアロビクスだった可能性もありますか (笑)?
そうですね (笑)。何でも出来るスポーツクラブのようなところを探していたんですけど、そういう場所がなくて、輪島功一スポーツジムになりました。週に一回ずっと通っていて、もう14年になりますね。サンドバックとかも使います。

ー それはやはり爽快感につながりますか?
爽快感というよりも、ただひたすら疲れるんですけど、非常に動きが激しいので、その間は余り考え事が出来ないですね。頭の中が真っ白と言うか。それが多分いいんだと思うんです。普段ずっと考えているから。それで続いているのかなと思いますね。

ー 無人島に行かなければならなくなって、一冊だけ本を持って行ってもいいと言われたら、どの本を持って行きますか?
よく考えるんですが、聖書かなと思います。内容があまりにも難しくて分からないので (笑)。

ー これから初めて角田さんの作品に接するスペインの人達に対し、何かメッセージがありますか?
本当に私は感想を知りたいです。スペインの人達が読まれてどう思ったかと言うのを、とても知りたいです。

 

 
「八日目の蝉」がスペインの人達に目にどのように映るのかを知りたいと言う角田氏。日本の現代文学の若き旗手の一人として、日本・アジアに留まらない、スペイン語圏での今後のご活躍も期待したい。

 

 
oct2014_La cigarra del octavo día「八日目の蝉」
スペイン語タイトル “La cigarra del octavo día”


Galaxia Nova コレクション
ISBN: 978-84-16072-44-6 240 pp. | 18 €
発行日:2014-10-08
Ebook版あり
 
Galaxia Gutenberg