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11月1日、現代の日本の作家を代表する一人である吉本ばなな氏がマドリードを訪れ、市内の総合文化施設マタデロ内のカサ・デル・レクトールにて、自身の作品に対する思いを語った。
 
このトークの冒頭で、吉本氏はその作品「デッドエンドの思い出」の中に含まれる作品「おかあさーん!」の一部を日本語で朗読し、スペイン人の観衆はステージ上に写されるスペイン語を読むことで、この朗読を味わうことができた。
 

 
吉本氏は語った:
 
『この「おかあさーん!」と言う作品を書いた当時、日本でお祭りのときに皆に振舞われるカレーに毒が混入されるという事件があり、また幼児虐待の話題も出始め、良くないことが世の中で始まっていて、その二つのことが時代の中でニュースになり始めたことを自分の中で捉えたことと、ちょうどこの本を書いているときは、自分の息子が生まれる前で、この機会を逃したら、今後は辛いこと、哀しいこと、残酷なことは書けなくなるのではないかと思って、この本のなかでは積極的に辛いことや哀しいテーマと取り組みました。』
 
『私の本を通じて読者の皆さんに届けたいのは、一人一人がその人だけの人生を生きて欲しいということです。
若い頃は、私自身が自分の心の傷や孤独を癒すために本を書いて、それが他の人の役にも立てば良いと思っていましたが、今は私の読者の皆さんに何かを届けるために書く方向に変わって来ました。
自分が癒されれば良いというケチな考えでいると、自分も癒されないし読者も癒されないことに気付いてきました。癒しが起こるためには、私と読者が同時でなければうまく行かず、まず私が人の為になりたいと思って何かを書いて、それが本当に役に立ったという読者の声を聞いた時に、私自身が癒されるのだと感じるようになりました。』

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トークショー終了後、多くの読者がサインを求めてステージに押し寄せた。サイン会を行う予定は組まれていなかったが、吉本氏は長蛇の列になったファン一人一人に対し、丁寧にサインを行っていた。
 
吉本氏は作家であり、その仕事は彼女の本の中に詰め込まれている。
それを味わう唯一の方法はその本を読むことだが、このトークはスペイン人の読者にとっても、彼女がその作品の中に織り込むメッセージを理解するための、またとない機会となったに違いない。
 
吉本ばななトークショー
主催:国際交流基金マドリード日本文化センター / Casa del Lector
協力:全日本空輸(ANA)

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吉本ばなな


1964年、東京生まれ。
日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『鳥たち』『サーカスナイト』『ふなふな船橋』『イヤシノウタ』『下北沢について』がある。
公式サイト:http://www.yoshimotobanana.com
公式Twitter:https://twitter.com/y_banana

 

ESJAPÓNインタビュー:作家 吉本ばななESJAPÓNインタビュー:作家 吉本ばなな
 
東京・下北沢。春の雨の降るある日の午後、ESJAPÓNは世界中にその作品の愛読者を持つ作家の吉本ばなな氏のオフィスを訪問し、インタビューをさせて頂く機会を得た。
吉本氏にとってスペインとは? そして今後の制作活動の予定は?